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Q  なぜ血圧が高いと透析液温度が上げて座位にするのですか?

( 一般 Y.Kさん 神川県 )


A  血圧の規定因子を理解し,その機序を利用して下げようとします。

※これは対症療法的な手技の一つであって高血圧を治療するためのものではない事に注意して下さい。

これ以上の血圧の上昇を防ぐもしくは軽減するために,透析液温度を上げたり上体を起こしたりします。
しかし,急激に血圧が変動する場合や,それが予見できる場合には必ず医師の指示の下で行ってください。

あくまで,治療中の対症療法的な手技と認識し必要に応じて医療処置を検討する。


高血圧時での座位が継続的な血圧低下効果があるかどうかについては明確なガイドラインは確認できませんでした。
高血圧時において昇圧因子が優位もしくは過剰であることが明らかと考えます。あくまで,治療中の対症療法的な手技として認識し,明らかな高血圧を呈した場合は,医療処置などを受ける必要があります。

また,個々の血管応答性の違いにあることに注意して下さい。透析後半において血圧が高値を示していても,終了間際になると急激に低下する場合があります。下肢の筋痙攣などの症状等にも注視して下さい。

※下記の解説と前後しますが,明らかに高値もしくは低値の血圧の場合は,すぐに適切な医療処置を受けてください。



※※透析液温度と(半)坐位については下記より追記します。


なぜ,姿勢や透析液温度が血圧に影響を及ぼすのか・・・

■ ■ 脳よりも心灌流量を下げることから始める? ■ ■

  高血圧の場合,脳血管等への影響を心配しますが,それだけでなく,まず血圧をコントロールするためには,その過程において起こる生体反応について知る必要があるのでは思います。

☆予備知識☆  高血圧(低血圧)がもたらす脳への血液量について知る。

脳は,血液によって運ばれた大量の酸素と糖を代謝して,その機能を果たしています。
また代謝によって生じた二酸化炭素や代謝産物を血液によって運んでもらっています。
しかし,脳は血液の供給が止まると,わずか数分でその機能を失います。そのため,脳へ送られる血液を一定量に維持するための機能が備わっています。

それを脳の自動調節能と呼ばれています。

脳循環の調節能が有効な範囲は平均動脈血圧が50~60mmHgと160~170mmHgとされています。

この範囲内(平均動脈血圧61~159mmHg内)の血圧に関しては,一定の血流量で脳に供給がされます。

※平均動脈血圧 = {収縮期血圧-拡張期血圧}×1/3+拡張期血圧


しかし,平均動脈圧160~170mmHg以上になると脳の自動調節能は血圧に負けて血管は拡張し,脳血流は増大し充血状態になります。 それは様々な脳血管イベントの元になります。 また,平均動脈圧が50~60mmHg以下になると脳血流量は急激に減少します。

以上の理由より,大きな血圧の変動も自動調節能によって,ある程度維持されています。

※血圧に関する詳細は,別の解説ページで掲載します。(※追加更新予定)


血圧の上昇は 何らかの原因での心拍出量や末梢血管抵抗の上昇が考えられます。しかし,多くの患者で血漿レニン活性が関与していたり,また他の要因が関与している場合がある。
※別に更新し解説予定(追加更新予定)

■ ■ 血圧が高いと(半)坐位にするのはどうして? ■ ■

坐位にすることで循環している血液を下肢に集中させ心還流量を少なくすることで心充満量が下がり,結果血圧が下げるためです。
血液が心臓から駆出された血液量(心拍出量)と末梢血管抵抗によって表されるからです。


血圧の主な規定因子

この心臓に戻る血液量(心充満量)を下げることで心拍出量が下がり血圧の低下が起こる。

 ■ 血圧が高いと透析液温度を上げるのはどうして?■ ■ 

透析液温度を上げる理由として,ヒトの正常体温は36.9±0.3℃であるといわれる。(深部体温と皮膚体温の違いに注意)
※表皮の体温は深部体温より低い。

しかし,透析液温度の設定温度は一般的に36.0~36.5℃付近であることが多く,深部体温よりも低い温度であることが分かります。 また,加温部位は透析液と接触できるダイアライザー内であり,温められた血液が体に返るまでに時間がかかります。

よって,設定された温度に温まれた血液は,室温や回路長などによって温度誤差が生じ,必ずしも設定温度であるというは断言できない。



私たちは『前視床下部』によって体は,とても精密に温度管理されています。 午前6時頃が最も低く,午後4時付近で最も高くなりますが,それでも0.5℃~1.0℃範囲とされています。

この点において,深部体温と透析液の設定温度では1.0℃近くの差があることが想像できる。

ヒトは,生体内で発熱したり熱を放散することで適度なバランスを取っています。熱の放散は,毛細血管を拡張することで熱を体表まで伝えて熱を逃がしています。

血液を温めることで深部体温が上昇し前視床下部が熱の放散に向けて全身に指示を送ります。

透析液温度の設定に関しては個人の耐用性と血圧を考慮し決定します。

しかし,医療従事者側の意見として37.0℃以上に設定することに抵抗があると聞きますが,透析液温度で熱放散を効果的に起こす場合は深部体温や耐用性の考慮も必要になると考える。



血圧が上がってきた場合では,上記の生体調節能を利用して血圧低下を図ります。

透析液温度を上げることで体に溜まった余分な熱を放散するように毛細血管が拡張します。
毛細血管が拡張することで,血液が通る血管が広くなりため抵抗が下がります。(末梢血管抵抗が下がる。)

すると末梢血管抵抗が下がることで血圧も下がります。(下図式参照)


血圧の主な規定因子


毛細血管が広がることで静脈容量が上がり見かけ上において循環量が減少します。
※全血液量の80%以上が静脈内にある。(そのため静脈は容量血管といわれる。)

個人差はありますが初期設定温度よりも高くするという点において,透析液温度を上げることで劇的な血圧の変化はないと考察します。
(身体の熱(内部の熱)を表皮で放散させることで維持していることに注意)

ただ,透析液温度が1.1℃変化すれば,血圧へ有意に影響を及ぼすと言われています。
また,過度の加温は血液に負担をかけることになります。高温になれば溶血(42℃より)を起こすことにもあります。普段(事前指示簿)よりも設定を上げる場合などは,必ずDrの指示に従って設定をして下さい。

透析液温度を上げる(もしくは,下げる)のがどれほど血圧に関与しているかについては議論されているが1.1℃の変化において有意に影響を及ぼすといわれている。


高血圧時は透析液温度上がるべき?座位にするべき?

高血圧時には上体を起こして心還流量を減らし,透析液温度を上げて末梢血管抵抗を下げて血圧の上昇を防ぎます。
低血圧時には下肢を上げて心還流量を増やし,透析液温度を下げて末梢血管抵抗を増やし血圧を上げます。


しかし,これらは原因に対してのアプローチではないことに注意。度重なる血圧の変動は体にとって非常に大きな負担となります。
※温度を上げたり姿勢を変えることが高血圧を治療するためのものではない。

当サイトの考察として…

自動調節能については動脈壁に分布する自律神経の働きによって行われています。よって,血管系や神経系疾患などによって差異は大きくあると考察します。また,出血(鼻出血なども含め)時では抗凝固剤を使用していることにより血液が固まりにくい状況下です。 そういう点も考慮し,高血圧時では坐位などをして,血圧を下げるようにする促すことはよい方向と考えます。

しかし・・・・

坐位や立位によって起こる一時的な血圧低下が,結果として昇圧系を刺激する原因も否定できません。
まだまだ議論の余地があるとされていますが,当サイトではあくまで考察としての範囲で載せております。

血圧後半(ドライウェイト付近)において血圧170mmHg以上ある場合は,容量依存による高血圧ではないと考察します。
上体(姿勢)や透析温度だけでなく,さらなる医療的な検討が必要があると思われる。


透析時の血圧変動の際は,適切に医師の指示を確認し,適切に処置をする必要があります。上記の内容は,施設,医師の診断によるものではありません。医療行為や診断等を助長するためではない事に留意して下さい。
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