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Q  CHDFの時,抗凝固剤をどのように使い分けていく方がよいか。

(研修医 C.B 東京都)


A  抗凝固剤による出血性合併症は最も重要な課題とされ無視することはできない。

※私的な意見であることに留意して下さい。質問ではフサンとありましたが,フサンは商標登録されている商品名であり,一般名はメシル酸ナファモスタットもしくは,ナファモスタットメシル酸塩となります。(当サイト内ではメシル酸ナファモスタットとして書かせて頂きます。)

持続緩徐式血液濾過(CHDF)を施行する際(適応内の症例)の抗凝固薬として,一般的にヘパリンよりもメシル酸ナファモスタットが選択されることが多いのではと考えます。(※CHDFの対象となる症例の殆どはICUに収容されていたり,出血傾向であったり,すでに出血性合併症を併発していることを想定)
(例)CHDFの中止例の一つに消化管出血が挙げられる。これは止血困難が理由の一つといえる。

ヘパリンは,(下記重複)安価で安定した強力な抗凝固作用を有し,他の薬剤に比べ安全域が広く,なおかつ中和剤を有しているなど,安全性が高いことがいえるので使用しやすいことがいえます。欠点として,体外循環内だけでなく体内循環まで抗凝固してしまう点は,重症例の場合は特に問題視されます。

※商品によって異なりますが,ヘパリンとメシル酸ナファモスタットの価格には20倍も開くため,CHDFを24時間施行した場合の費用は決して大きないといえます。経営方針によっては色濃く反映しているところはないとはいえないでしょう。


CHDFは長時間持続的な治療を施行するため,相当量の抗凝固薬が必要となります。
重症患者は出血のリスクが高いとの観点から抗凝固薬は作用時間が短く管理しやすい点,またACTによるベッドサイドによるモニタリングが容易であると理由からメシル酸ナファモスタットが選択するのでは考えます。

持続緩徐式血液濾過(CHDF){(J038-2)1990点}は急性腎不全以外にも腎不全を伴わないMOFや敗血症、劇症肝炎や急性肝不全,術後肝不全などの肝疾患,重症膵炎などに対して適応があります。適応症例の観点からも出血性合併症は,やはり避けるべきといえます。

メシル酸ナファモスタットの作用はトロンビン,Ⅹa因子,ⅩⅡa因子などの凝固系酵素の抑制することで抗凝固作用を発揮します。
さらに強力な合成蛋白分解酵素阻害作用を有しているので,トリプシン,カリクレイン,プラスミン,補体などを阻害するだけでなく好中球,線溶系などの凝固系以外の阻害作用も有しています。

その広範で強力な蛋白分解酵素阻害作用から,体外循環に起因する血球や酵素系の活性化が抑制でき,上記の通り補体系の活性化も抑えられます。

出血性合併症に関しては,メシル酸ナファモスタッドを抗凝固剤として用いた時の出血性合併症発生頻度は,ヘパリンや低分子ヘパリンよりも低値であることが報告されています。



<<では,安価で安定した抗凝固作用のあるヘパリンがなぜ選択されないのか・・・>>


これは抗凝固薬の課題といえる出血性合併症(出血助長)が,ヘパリンの最大の問題点といえます。

ヘパリンは適正なACT管理でも高率で出血傾向を発症するとされています。
(※ヘパリンを用いたCHFを48時間以上施行すると70%近い高率で出血性合併症を発症するという報告がある。)

さらにヘパリンは,血小板に対しては抑制よりは刺激作用を持ち,結果として血小板凝集を亢進させ白色血栓を形成し,血小板機能異常や体外循環内残血亢進を招来させます。これは長時間使用を前提としているCHDFとしては膜寿命が短くなることにもなります。

(※出血のリスクがない患者では,出血の恐れなしに比較的に自由に使用できる。ヘパリン自体は即効性が高く安全域が広く中和剤(プロタミン10:9)があるなどの利点が多数ある。特にメシル酸ナファモスタットと比べると非常に安い。)

<しかし・・・>

出血傾向以外の副作用としてアルドステロン合成が抑制(低アルドステロン)し,高カリウム血症を来すことも注意するべき一つといえます。

重症例では高度にアシドーシスに傾いていることもあり特に重要となります。アシドーシスを来していると総カリウム量は同じでも血清カリウム値は上昇します。
(例)pH7.0まで低下すると血清カリウム値は7.0mg/L近くまで上昇すると言われている。(B.Hスクリブナー)

CHDF適応を加味しその管理は困難であると考えるとヘパリンの使用は,やはり一度考慮する必要があると考えます。

<<では,低分子ヘパリンは第一選択にはならないのか?>>


低分子ヘパリンの場合,抗Ⅱa作用が弱いことから,Lee-White法,ACT法での凝固時間の延長が軽度で,モニタ法としては適当と言い難い。また抗Ⅹa活性化の測定には測定キットと時間を要するのであまり好まれない。
そうした理由より,ベッドサイドモニターとしては適していないといわれる。

しかし,CHDFの施行時間(膜寿命など)が短い場合,むやみなメシル酸ナファモスタットの追加使用は医療経済にとって適切とはいえない。
そうした場合,出血傾向を考慮し低分子ヘパリンを少量投与したりする。

以上より,CHDFでの抗凝固薬の第一選択としてメシル酸ナファモスタットが選択されている。

<<当サイトとしては・・・>>

(当サイトでは,症例によって適宜変更するべきであるという前提は当然ですが,第一選択をメシル酸ナファモスタットと考え,ヘパリンの使用については出血病変(合併症等も含め)が明らかにないと判断できる場合に使用の提案ができるのではと考えます。)
それ以外(上記の状況外)の例において,(ワーファリンなどの長時間作用型(半減期55~130時間)の代えなども含め)ヘパリンが選択される考察は,容易に管理しやすい抗凝固能を有した薬剤で管理しなければならない状況下と考える。

<< まとめ >>

出血助長という抗凝固薬の共通の問題点を,半減期5~8分程度という局所抗凝固作用という特徴で解決でき,体外循環に起因する血球,諸酵素系を抑制できるなど体外循環用抗凝固薬としては極めて好ましい特徴を有している。以上の理由よりCHDFにとって適当であると考えます。

ただし,注意する点はアナフィラキシーショックだけでなく,PGBAの体内蓄積による皮膚病変や意識障害が好発しやすいことは注意する必要があります。

<参考>
ACTの場合:150~170秒(文献により200秒)を目安に調整する。
投与量の場合:0.3~0.5mg/kg/hrから調整範囲といわれる。

日本医薬品では「出血性病変又は出血傾向を有する患者の血液体外循環時の灌流血液の凝固防止」として扱われおり,それを「毎時20~50mgを5%ブドウ糖注射液に溶解し、抗凝固剤注入ラインより持続注入する。」と記載されている。 つまり,審査委員会の意見は別として一日に50mg×24hrの1,200mgの使用が認められる(⇒そんな大量の使用は認めてくれない)のはということになる。
抗凝固剤はまるめに包括されておらず別途請求できる。



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